オーガニック栽培への強い思いと、
次世代を⾒据えたリサイクル機器の導⼊
20年来のつきあいのラスさんが導⼊した新設備
ノヴァとは20年来のつきあいになる有機ウォールナッツ生産者のラスさんは、長旅の後の私たちを温かく迎えてくれた。はじめはラスさん宅にてしばし歓談。旧知の間柄だけに話も弾み、ビジネスの相手というよりは、家族ぐるみで古くからの友人のように接してくれる。
話が一段落したところで、早速、工場の見学に出かけた。最近、設備を増やしたということで少し得意げなラスさん。中でも一番の自慢が、BIOS(Biologically Integrated Orchard Systems)という大型システムだ。これを使うと、ウォールナッツを加工するときに出る殻をリサイクルしながら、殻に熱を加えることで発生したガス(水素、炭素、メタン)を電気に変えられるのだという。10年ほど前からこの設備に目を着けていたというラスさん。話をするときも少し力が入っている。
有機ウォールナッツの栽培・加工という事業を通じて、次の世代にこの豊かな大地を残していきたい、というのがラスさんの昔からの考えだった。しかし生産の過程では、多くの電力やガソリンを使用するのも事実。特にナッツの殻を割ったり、製品を選別するといった最終過程では、工場内の設備を動かすために、すべて電気が必要になる。
「そうした電気のほとんどは、火力発電や原子力発電によって生み出されたものです。できることなら自力で電力を作り出すシステムを導入し、本当の意味で次の世代に豊かな大地を残していけるようにしたいと、ずっと思っていました」とラスさん。このBIOSはアメリカにはまだ2基しかなく、そのうちの1基がラスさんのもとにある。現在、ラスさんのところでは新しい工場を建築中で、新工場にはこの機械を2基導入してすべて自然エネルギーでまかなう予定だという。
次の世代に何かを残したい
ちなみに、BOISは1基で1億2000万円の値段になる。国が20%の補助を出してくれるというものの、それでもやはり大金だ。しかしラスさんは、こう力を込めて語る。「現在持っているすべてのお金を費やしたとしても、次の世代に何かが残せればそれでいいと思います。今できることをしなければ、次の世代に何が残せるのか。お金の力で現在の環境の悪化を少しでも遅らせることができれば、そこにこそお金を出すべきだと考えています。」
「以前はウォールナッツの殻を処分するためにお金を払っていたし、処理場までトラックで運ぶのにガソリンも使っていました。でも、この機械を使うようになって、その必要もなくなりました。燃やして黒い砂のようになった殻はほぼ100%純粋なカーボンなので、肥料として土にまくことも、他の人に売ることもできます。このBOISのおかげで電気が自家発電で賄えるだけでなく、殻の処理、さらには燃やした殻のカスまで再利用できる。BIOSは経済的にも、地球環境の面でもやさしい優れものです。」とラスさん。将来的には近所の人の電気も供給できるようにしていきたいと意気込みを見せていた。
身近な人の死をきっかけにオーガニック栽培を開始
ラスさんのお話はまだまだ続き、今度はウォールナッツを有機栽培する畑に向かう。通常、ウォールナッツの木は育つのに7年ほどかかり、その後40〜50年間は収穫できるとのこと。20種類ほどのウォールナッツの木を保有しているということで、受粉の時期になるとめしべから粘着作用のある部分が顔を出して受粉するという、ちょっと変わった種類のものも見せてくれた。
ラスさんのウォールナッツ畑にはたくさんの下草が生えており、その下草が木を守ってくれる。また、下草により虫たちが増え、その死骸が肥料の代わりになって良い土をつくってくれる。
オーガニック農業を始めるきっかけとなったのは、お父さんの死だったとラスさんは言う。1979年、ラスさんのお父さんは68エーカーの敷地に植えられたアーモンドの木を買い、その頃から少しずつウォールナッツの木も育て始めていた。試行錯誤の末、少しずつ農薬などの化学薬品を使う量を減らしていったところ、「その効果には驚いた!!」とラスさん。しかし、お父さんは80年代に癌で倒れ、帰らぬ人となってしまわれた。
このお父さんの死がきっかけとなり、ラスさんは農場での殺虫剤が人体に与える影響などを学ぶことになる。結局、当時の医者たちが「癌の原因は殺虫剤によるもの」と決定づけることはできなかったが、これをきっかけにラスさんは家族の健康を考え、1989年から化学薬品を全面的に使用しなくなる。これがラスさんへのオーガニックへの第一歩となった。